
佐々木尽選手がセムジュ・デビッド選手に6回KO勝ちし、日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィックのウエルター級3冠を統一しました。
結果だけを見れば見事なKO勝利です。しかし、佐々木選手本人は「練習の動きが1割しか出せなかった」と、試合内容には納得していません。
実際、セムジュ選手の独特なリズムやタイミングに苦しみ、佐々木選手が思い描いていた試合にはならなかったと思います。それでも相手に完全にペースを渡さず、最後は倒して勝ちました。
自分の動きができない。思うようにタイミングも合わない。それでも最終的にはKOする。僕が今回最も評価しているのは、この勝負強さです。
今回の試合で見えた佐々木選手の強さと世界へ向けた課題、田中空選手との再戦、そして今後期待したい世界ランカーとの対戦について振り返ります。
- 1. セムジュ・デビッドは「強い」以上にやりにくい
- 2. 独特なタイミングに苦しんだ佐々木尽
- 3. ダウンによって試合の流れを引き寄せた
- 4. やりにくい展開でも集中を切らさなかった
- 5. 左だけでなく右でも倒せる選手になった
- 6. ラスベガス合宿の成果と対応力
- 7. 「練習の動きが1割」でも倒して勝った
- 8. 世界で勝つにはペースを支配する必要がある
- 9. ノーマン戦後も高い目線で世界を見ている
- 10. 田中空との再戦より世界ランカー戦を望む理由
- 11. アジア3冠統一で世界への切符を手にした
- 12. ローリー・ロメロ戦は世界への力試しになる
- 13. 日本人がウエルター級世界王者になる難しさ
- 14. 佐々木尽が世界に通用する最大の武器
セムジュ・デビッドは「強い」以上にやりにくい

試合前から、セムジュ選手は佐々木選手を空回りさせる可能性があると考えていました。
リーチは長そうですが、距離を取ってアウトボクシングを続けるタイプではありません。どこかで佐々木選手の左フックのカウンターが当たる可能性はあるものの、倒し切るのは難しいのではないかと見ていました。
セムジュ選手と戦った選手は、後半にスタミナを消耗する傾向があります。ただ、佐々木選手にはスタミナがあります。そのため、大きなポイント差にはならなくても、佐々木選手が判定で勝つ可能性が高いと予想していました。
実際のセムジュ選手は、体が柔らかく、頭の位置が常に変わります。さまざまな角度からパンチが飛んできて、手数も多い。見た目以上にパンチもあるようなので、相手にとっては非常に厄介です。
東京五輪に出場しているだけに、単純な技術だけでなく、タイミングの取り合いや駆け引きのレベルも高いのでしょう。対戦相手からすると、対策を立てにくいタイプだと思います。
独特なタイミングに苦しんだ佐々木尽

セムジュ選手のボクシングは、きれいに洗練されているようには見えないかもしれません。しかし、タイミングとリズムが独特です。日本人選手にはあまりいないタイプだと思います。
佐々木選手も、そのタイミングを取るのに苦労していました。
佐々木選手は、左フックや左ボディーのカウンターや相打ちのタイミングでパンチを当てるのが非常にうまい選手です。今回もそのタイミングを狙っていたと思いますが、セムジュ選手の頭の位置が動くため、顔面にクリーンヒットさせにくそうでした。
それでもパンチを当ててダウンを奪えたのは、佐々木選手の当て勘が優れているからです。ただ、きれいにタイミングを合わせたというより、少し強引にパンチをねじ込んでダウンを奪ったように見えました。
ダウンによって試合の流れを引き寄せた

最初のダウンでは、セムジュ選手にある程度のダメージが残ったと思います。
セムジュ選手は独特のやりにくさを出していましたが、そこから一気にペースを上げたり、明確にポイントを取り切ったりすることができませんでした。
一方、佐々木選手のパンチは見栄えが良く、体勢も崩れません。パンチに迫力があるため、審判にもはっきりとアピールできます。その差によって、ポイントは佐々木選手に流れていたように見えました。
早い段階でダウンを奪ったことで、佐々木選手も「倒せる」と感じたのではないでしょうか。
セムジュ選手は体が柔らかく、パンチを逃がしたり吸収したりするのがうまい印象でした。その相手からダウンを奪い、最終的に倒し切ったことには大きな価値があります。
やりにくい展開でも集中を切らさなかった

佐々木選手は試合後、「相手のパンチは全部見切っていた」と話しています。実際、効かされるようなパンチはほとんど受けていなかったと思います。
4回にはバッティングで右目上をカットしましたが、その後の動きや判断に大きな影響は感じませんでした。
今回、特に評価したいのは、やりにくい展開の中でも気持ちと集中力を切らさず、最後まで倒しにいったことです。
タイミングが合わず、自分のペースに乗り切れない試合では、徐々に集中力が落ちることがあります。セムジュ選手にはパンチもあり、拳も硬かったようです。そのような相手を最後まで追い続け、6回に倒し切りました。
佐々木選手の気持ちの強さが表れた試合ですし、この勝利によって、さらに評価が上がったのではないでしょうか。
左だけでなく右でも倒せる選手になった

これまでの佐々木選手には、左フックで倒す印象が強くありました。
今回は右でも倒しています。右の使い方自体が以前とどのように変わったのかは、セムジュ選手とのかみ合わせもあり、正直なところ分かりにくい試合でした。
ただ、対戦相手からすれば、これまでは「左フックに気をつける」という印象が強かったはずです。そこに右でも倒せるという結果が加わりました。
右でも倒せる。左でも倒せる。佐々木選手の武器が増えたという印象を受けました。
ラスベガス合宿の成果と対応力

佐々木選手は試合前、ラスベガス合宿を通じてフェイントとディフェンスが伸びたと話していました。
今回の試合では、効かされる場面はほとんどありませんでした。佐々木選手はもともと打たれ強く、反応も良い選手です。
一方、位置をずらす動きや攻撃の多彩さでは、セムジュ選手の方が目立っていました。それでも、その動きに対応し、相手に完全にペースを渡さなかったところは評価できます。
序盤など、セムジュ選手にポイントを取られたラウンドはあったと思います。しかし、やりにくい相手に試合全体を支配されることなく、自分の流れへ引き戻して最後は倒しました。
強い選手は、相手とのかみ合わせが悪く、自分のペースに乗れない試合でも最終的には勝ちます。佐々木選手も、そういう選手になってきたのではないでしょうか。
「練習の動きが1割」でも倒して勝った

佐々木選手は試合後、「練習の動きが1割しか出せなかった」と話しています。
本人がどのような練習をしてきたのか、すべてを把握しているわけではありません。ただ、フェイントやディフェンスを含め、自分がやろうとしていた試合ではなかったのでしょう。
僕が見ても、佐々木選手が理想としていた内容ではなかったと思います。それは、セムジュ選手のうまさとやりにくさによるものです。
新しく身につけた動きを試合で出せるかどうかは、相手との相性やかみ合わせにも左右されます。今回はセムジュ選手が想定以上にやりにくかったのだと思います。
それでも佐々木選手は倒して勝ちました。
練習してきたことを十分に出せない。自分のペースにも乗り切れない。それでも最後はKOで勝つ。僕は、そこが今回の試合で最もすごかった部分だと思います。
世界で勝つにはペースを支配する必要がある

今回の佐々木選手には、試合のペースが行ったり来たりする時間がありました。
相手にさらにパンチ力やスピードがあれば、そのまま主導権を奪われ、ポイントも取れなくなる可能性があります。佐々木選手自身が今回の勝ち方に納得していないのは、見ている基準が世界だからでしょう。
今回の試合はポイントでも上回り、最後はKOで終わらせています。やりにくい相手にしっかり勝った、評価されるべき素晴らしい勝利です。
ただ、佐々木選手の中には、もっと圧倒的に勝ちたいという考えがあったのだと思います。
ウエルター級で世界を目指すのであれば、「アジアでは敵がいない」「まったく苦戦しない」と思わせるほどの強さを見せたい。その基準で自分を評価しているからこそ、今回の内容に納得できなかったのでしょう。
ノーマン戦後も高い目線で世界を見ている

佐々木選手は、ブライアン・ノーマン選手との世界戦でKO負けした後、田中空選手に勝利し、今回はセムジュ選手を倒しました。この2つは非常に大きな勝利だと思います。
ただ、今回の試合ではセムジュ選手が非常にやりにくかったため、佐々木選手の進化が分かりやすく表れたとは言いにくい部分もありました。本人が悔しさの残るコメントをしたのも、そのためだと思います。
現在の世界のウエルター級には、人気と実力を兼ね備えた強豪がそろっています。その中へ入っていくためには、圧倒的な強さを見せる必要があります。
佐々木選手はノーマン戦の映像を何度も見返し、「弱いと思われているのはプライドが許さない」と話しています。
今回の勝利にも満足せず、悔しがっていること自体、まだ納得できていない証拠です。それだけ高い目線で世界を見ているのだと思います。
佐々木選手はまだ若く、可能性は十分にあります。華があり、自分の力を信じ切る強さも持っています。チャンピオンになる選手には、そうしたものが必要です。
世界を相手にしても、その気持ちを持ち続けてほしいと思います。
田中空との再戦より世界ランカー戦を望む理由

田中空選手との再戦が実現すれば、間違いなく面白い試合になります。2人の試合は、何度行っても見応えのあるものになるでしょう。
ただ、佐々木選手はすでに田中選手に一度勝っています。
目線が世界へ向いているのであれば、アメリカのウエルター級の世界ランカーなど、海外の選手に挑戦したい気持ちが出てくるのは自然です。
現在のウエルター級のマーケットは、アメリカを中心に動いています。現地の人気選手や世界ランカーに勝つことが、世界戦への近道になります。
一度勝った日本人選手と再び戦うことが、どこまで世界戦につながるのかは難しいところです。日本のボクシングファンにとって、佐々木尽対田中空は非常に見たいカードですが、佐々木選手の目線は世界へ向いているのでしょう。
再戦が具体的にどのように計画されているかは分かりません。仮に大きな興行で実現するのであれば、それはそれで非常に盛り上がると思います。
アジア3冠統一で世界への切符を手にした

今回の3冠統一によって、佐々木選手は世界へ少し近づいたと思います。
世界戦を実現するには、まず世界ランキングに入らなければいけません。世界ランキングを持っていれば、ほかの世界ランカーと戦う際の交渉材料にもなります。
こちらもランキングを持っているから、世界ランカー同士で戦おうという交渉がしやすくなります。3冠統一は、そのための切符を手にする意味でも大きな結果です。
佐々木選手は、対戦したい相手としてルイス・クロッカー選手の名前を挙げています。僕はクロッカー選手の試合を詳しく見ていないため、相性については何とも言えません。
ただ、世界王者になった経験のある選手と戦い、勝つことができれば、大きな自信になります。その後にトップランカーと戦うことが、世界挑戦への道になると思います。
また、アメリカで試合をすることも非常に大切です。
ローリー・ロメロ戦は世界への力試しになる

陣営から名前が挙がっているローリー・ロメロ選手との試合は、スタイル的にもかみ合うと思います。
ロメロ選手には強いパンチがあります。そのため、佐々木選手には、今まで以上にパンチをもらわないことが必要です。
ロメロ選手は世界王者になった経験がありますが、絶対王者として長く君臨したタイプではありません。現在のウエルター級の世界王者たちと比較すると、佐々木選手が現在の実力を確認する相手として適していると思います。
佐々木尽対ローリー・ロメロは、個人的にも非常に見たい試合です。
日本人がウエルター級世界王者になる難しさ

日本人がウエルター級で世界王者になることは、非常に難しい挑戦です。
ライト級以上になると、世界王者になる難易度は一気に上がる印象があります。村田諒太さんが、さらに上のミドル級で世界王者になったことが、どれほどすごいことだったのかが分かります。
軽量級では、日本やアジア、中南米のマーケットが強い。一方、ライト級以上になると、アメリカやヨーロッパのマーケットが強くなり、選手層の厚さも大きく変わります。ファイトマネーも上がり、世界中から人気と実力のある選手が集まります。
特にウエルター級は、スピードとパワーが両立する人気階級です。見応えのある試合が多いため、強い選手が集まります。
ウエルター級では、力の劣る世界王者が生まれることはほとんどありません。それだけ厳しい階級です。
佐々木尽が世界に通用する最大の武器

佐々木選手が日本人初のウエルター級世界王者になれる可能性は、ゼロではありません。ただし、かなり険しい道です。
世界を高い基準で見据え、努力を続けなければいけません。
今回も佐々木選手は、練習してきたことをほとんど出せなかったと話しています。それでも、やりにくい相手にパンチを効かせ、最後は倒し切りました。
本人がまったく納得していないことも大切です。「まだ足りない」と考えて努力を続ければ、不可能ではないと思います。
佐々木選手が世界に通用する最大の武器は、度胸です。
パンチを受けても体勢が崩れず、フィジカルの強さもあります。相手を倒し切る攻撃力も持っていますが、僕が最も評価しているのは、強い相手にも向かっていける度胸です。
次の試合では、相手の攻撃を受けすぎず、自分からペースをつくることが重要になります。試合をシーソーゲームにせず、強い相手を自分の流れの中で倒し切る。そうした勝ち方ができれば、世界再挑戦への期待はさらに高まります。
佐々木選手自身も、今回のようなやりにくい相手にペースを動かされたことには納得していないはずです。どのような相手にも主導権を渡さず、最後は勝ち切る姿を次の試合では見せてほしいと思います。
佐々木選手には華があり、試合も面白い。応援したくなる選手です。今後の活躍にも期待しています。
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【この記事を書いた人】
アマチュア実績全国3位(東洋大)
元プロボクサー
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第43代OPBF東洋太平洋バンタム級王者
ボクシング特化型パーソナルトレーナー
世界・東洋・日本チャンピオン10名輩出
キッズボクサー全国チャンピオン5名輩出
キックボクサー世界チャンピオン指導
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