
井上拓真選手と那須川天心選手の再戦では、天心選手が7回にダウンを奪ったものの、拓真選手が判定で勝利しました。
試合後は、4回までの40対36という採点や、ダウンを奪った天心選手が勝てなかった理由について、さまざまな意見が出ています。
僕は、試合全体では116対111ほどで拓真選手の勝利と見ていました。一方、序盤のフルマークについては、天心選手に厳しい採点だったと感じています。
今回の試合では、目立つ攻撃やダウンだけでなく、クリーンヒットの少ないラウンドで、どちらが試合を作っていたかが重要だったと思います。
選手や陣営の手応えとジャッジの評価が異なったとき、どのように戦い方を修正するか。
その点も含め、トレーナーとしての見解をお伝えします。
4回までの40対36は厳しい。ただ、点差がそのまま実力差ではない
僕は4回までを、39対37で拓真選手が優勢、あるいは38対38ほどと見ていました。そのため、40対36はあり得ない採点ではありませんが、天心選手には厳しいと感じました。
各ラウンドの記憶は少し曖昧ですが、1回か2回には天心選手につけてもよいと思ったラウンドがありました。確か2回だったと思います。お互いにクリーンヒットが少ない中で、天心選手の攻撃を評価すれば、そちらに振れるという感覚でした。
ただ、40対36だからといって、序盤が一方的だったとは限りません。
僅差のラウンドでも、基本的にはどちらかに10対9をつけます。その僅かな差を同じ選手が4回続けて取れば、内容が競っていても4ポイント差になります。
今回、評価が分かれたのは、どちらが試合を作っていたかという部分だったと思います。拓真選手が仕掛け、天心選手が対応していたと見るのか。それとも、天心選手が主導し、拓真選手が合わせていたと見るのか。僕には、拓真選手が試合を作っているように見えました。
ジャッジも人間なので、攻防の評価が完全に一致するわけではありません。前進を評価する場合もあれば、ジャブによる組み立てを評価する場合もあります。ほかのジャッジと明らかに違いすぎる採点は別ですが、僕は、見方の違いも人間が採点する面白さだと考えています。
前に出ることと、主導権を握ることは違う
天心選手は前回より下がらなくなっていました。ただ、それだけで主導権を握っていたとは言えません。
例えば、天心選手が前に出て拓真選手が下がった場面でも、プレッシャーによって下がらされたのか、拓真選手が自ら後方のスペースを使って戦っていたのかでは、意味が異なります。追い込んでいるように見えて、実際には相手の戦い方に付き合わされていることもあります。
今回、両者ともディフェンスがよく、クリーンヒットは多くありませんでした。その中で、拓真選手が先に仕掛け、けん制のパンチやプレッシャーで展開を作っていたと思います。
また、守っているだけではポイントにはつながりません。攻撃を防いだあと、自分の攻撃につなげられているかが重要です。
拓真選手は天心選手の打ち終わりに左フックを狙うなど、守りから攻撃につなげていました。天心選手も左ストレートのカウンターを狙っていましたが、基本的には拓真選手に見透かされているように見えました。
こうした僅かな差によって、判断の難しいラウンドを拓真選手が拾っていったという印象です。試合全体では、拓真選手がしっかり勝ち切ったと思います。
ダウン1回の重みは、ラウンド数によって変わる
7回にダウンを奪った天心選手が、なぜ判定では負けたのか。ここは、12回戦という試合の仕組みを考える必要があります。
今回の7回は、基本的に10対8で天心選手のラウンドです。2ポイント差がつきますが、これは相手が10対9で2ラウンド取った分を取り返すほどの差です。
3ラウンド制なら、1回にダウンを取られた側が2回と3回を取っても、点数は同点になります。4回戦でも、ダウンを取られた側が勝つには、残り3ラウンドをすべて取る必要があります。
一方、12回戦は12ラウンド分の積み重ねです。ダウンでダメージや心理的な優位を得ても、ほかのラウンドのポイントが消えるわけではありません。短いラウンド数の競技と比べると、ダウン1回が採点全体に与える影響は小さくなります。
もしダウン1回に極端に大きな点数を与えれば、ボクシングの競技性が変わってしまいます。ラウンドを積み重ねるからこそ、組み立てや流れの変化が生まれるのです。
選手が感じるダメージや手応えと、ジャッジの評価が異なることもあります。特に今回のように僅かな差を取り合う試合では、そのズレが表れやすいと思います。そうしたポイントの取り方には、拓真選手のキャリアも生きていたと感じました。
7回の追撃を止めた、拓真の守りとカウンター
ダウンを奪ったあと、天心選手はさらに攻めてもよかったと思います。正直、あの場面しかチャンスがなかったという感覚です。
もっとダメージを蓄積させるか、その場で終わらせるほどの気持ちで攻めてもよかった。ただ、それをさせなかったのが拓真選手でした。
拓真選手はロープを背負ってもパンチをさばき、体勢を崩さず、カウンターを狙える状態を保っていました。打っても当たらず、返しのパンチもある。天心選手のように目のよい選手ほど、その危険が見えるため、やみくもには踏み込めません。
だから、攻め続ければ倒せたとは言い切れません。攻めさせなかった拓真選手が強く、一枚上手だったと思います。
天心選手の目のよさ、反応、センスは、めちゃくちゃ優れています。ただ、今回はボクシングの幅に差がありました。
拓真選手は足、ボディワーク、ブロックと、さまざまな守り方ができ、プレッシャーをかけることも、アウトボクシングもできます。その選択肢の広さが、追撃を防ぐ場面にも表れていたと思います。
勝負の流れを変えた8回
僕は8回を、完全に拓真選手のラウンドと見ています。
7回に天心選手がダウンを奪ったからといって、8回の採点まで有利になるわけではありません。各ラウンドは分けて評価されます。
印象的だったのは、拓真選手がダウン直後にもかかわらず、強気に取り返しに来たことです。直前のダウンがなかったかのように8回を始め、すぐに圧力をかけたように見えました。
その強気な対応に、天心選手は少し下がったと感じました。そこで、天心選手に傾きかけた流れを拓真選手が断ち切った。僕は、このラウンドが大きかったと思います。
天心選手が8回もポイントを取り、拓真選手に流れを戻させなければ、そのまま勢いを増していたかもしれません。点差も縮まり、残り4ラウンドの展開が変わった可能性があります。
公開採点でズレが分かったら、戦い方を修正する
公開採点では、点数だけでなく、その日のジャッジが何を評価しているかも、ある程度つかめます。
4回終了後、拓真選手は「このままでポイントを取れる」と自信を深めたように見えました。一方、天心選手や陣営には、「この内容で取れていないのか」という戸惑いがあったと思います。
自分たちが取っていると思った内容で、実際には取れていない。そこで、何かを変える必要がありました。
僕がセコンドなら、まず「今のところ取れていない」と伝えます。そのうえで、手数を増やすのか、より強気に戦うのか、カウンターを狙う場面を増やすのかを考えます。
僅かな差で取られているなら、その部分をもう少し上げることで、今度は取れるかもしれません。今の戦い方が評価されていないと分かった以上、修正が必要だったと思います。
倒して勝つには、自分から展開を作る必要がある
完全決着をつけたいという天心選手の考え方は、とてもよいと思います。ただ、もっとリスクを取って倒しに行く余地があったように見えました。
天心選手は行きすぎた部分もあったと振り返っていますが、僕はそうは感じませんでした。
点数で負けていて、残り4ラウンドを取らなければならない状況で、9回も拓真選手が取ったとすれば、残りを取るだけでは勝てません。倒す必要があります。その状況なら、行きすぎるほど攻めてもよいと思います。
ただ、それを上回った拓真選手が強かったということです。
倒すことを狙いながらラウンドも取るには、自分から試合展開を作る必要があります。それができなければ、パンチを当てるきっかけも相手次第になってしまいます。
多少リスクを負ってでも、自分から展開を作り、当てに行くことが必要だったのではないでしょうか。
判定で勝つために、複数の作戦を用意する
僕は作戦を立てるとき、フルマークの判定勝ちをベースに考えます。最初から「1ラウンドくらい取られてもよい」とは考えません。
もちろん、実際には取られるラウンドもあります。ただ、想定と異なる形で取られたなら、できるだけ早く修正します。
以前、吉野修一郎選手が中谷正義選手と戦ったときも、立ち位置やポジショニング、足の使い方など、複数の作戦を用意していました。
1ラウンド終了後に本人へやりやすさを確認し、試した作戦の中から、より戦いやすい方へ切り替えました。
作戦が一つだけでは、対応が難しくなります。試合の中で試し、よりポイントを取りやすい方法へ早く変えていくことが大切です。
天心陣営と採点のズレ――自分の選手を厳しく見る理由
陣営とジャッジの採点が異なることは、僕自身も経験しています。「完璧に取った」と思った試合が、終わってみれば非常に僅差だったこともあります。
自分の選手を見ていると、どうしてもよい部分が目に入りやすくなります。練習してきたことを試合で出せると、その成果を評価してポイントをつけたくなることもあります。
僕がセコンドについた寺地拳四朗選手と矢吹選手の対戦でも、前半4ラウンドは判断に迷う感覚でしたが、実際には結構取られていたと記憶しています。
だから最近は、自分の選手を少し厳しい目で見ています。判断に迷うラウンドは、基本的に相手につけ、選手にもそのように伝えます。
龍太選手の試合でも、1ラウンドは取れていると思いましたが、2ラウンドは微妙でした。そのため、「取られていると思う」と伝えました。結果的に、2人のジャッジはそのラウンドを相手につけていたと思います。
ホームでも採点が分かれるなら、アウェーや中立の場所では、さらに取られる可能性があります。
取れていると思っていて、実際には取れていない。その状況が、やはりよくないのです。微妙なラウンドは取れていないと考え、そのうえで取れていたらよかったと受け止める方が、僕はミスを少なくできると思います。
セコンドの冷静な判断を、勝ちにつなげる
ボクシングは、人間が採点する競技です。僕自身、完全にポイントを取っていると思った試合でも、判定になっていれば負けていた試合がありました。海外や敵地で勝つことが難しい場合もあります。
選手はリング上で戦いに集中しているため、冷静に採点を判断するのは難しいと思います。その分、トレーナーやセコンドが客観的に見て、勝ちにつながる判断をしなければなりません。
今回の試合を見直すなら、最初の4ラウンド、次の4ラウンド、最後の4ラウンドと、公開採点の区切りごとに振り返る方法もよいと思います。
どちらが展開を作り、どの攻防がポイントにつながっていたのか。自分でも採点しながら見ることで、ボクシングをさらに楽しめると思います。
解説の続き:試合映像を送るだけで課題がわかる!あなたに当てはめるなら → ガチボクオンライン
ボクシングでよく聞かれる質問について
- 練習ではできるのに、試合だと動けない
- 自分に合う戦い方が分からない
- 作戦を立てても本番で崩れる
- 何を基準に練習を組めばいいか迷う
こうした質問は、
現場の相談でも繰り返し出てきます。
それぞれについて
考え方の整理としてまとめた資料を
公式LINEの友だち登録で見られるようにしていますので
必要な方は、こちらからどうぞ🔻

【この記事を書いた人】
アマチュア実績全国3位(東洋大)
元プロボクサー
世界ランキング最高7位
第43代OPBF東洋太平洋バンタム級王者
ボクシング特化型パーソナルトレーナー
世界・東洋・日本チャンピオン10名輩出
キッズボクサー全国チャンピオン5名輩出
キックボクサー世界チャンピオン指導
分析と戦略を丁寧に行い、完全カスタマイズされた指導法、機能解剖学を活かした根拠ある指導法を基に、勝利に直結する唯一無二のボクシングを提供しています。
本気で試合で勝ちたい方、勝率を上げたい方へ。
椎野大輝のパーソナルトレーニングは、 KO勝利を狙えるパンチ力強化、戦術設計、メンタルサポートまで、 全てを個別カスタマイズして提供しています。
「格上をひっくり返したい」「試合で勝てる武器がほしい」 そう思うなら、ぜひ体験してみてください。
🔻パーソナル詳細・申込みはこちらから🔻
日々の技術相談・戦略構築をオンラインで継続したい方へ。
「試合直前でも相談できる環境がほしい」 「相手分析や戦略立案を一緒にやってほしい」 そんな方は、ガチボクオンラインをご利用ください。
これまで10,000件以上の相談実績。 あなた専属のパートナーとして全力でサポートします。
🔻『ガチボクオンライン』詳細はこちらから🔻


