
亀田和毅選手の世界戦が、フィゲロア選手の体重超過に続き、体調不良によって試合当日に中止になりました。
約2か月半のメキシコ合宿を経て、35歳で迎えた世界挑戦。計量をクリアし、リングに上がる準備を整えていたのに、戦う機会そのものがなくなってしまった。
僕は今回の件を知って、亀田選手がかわいそうとしか言えませんでした。
和毅選手が口にした「プロとして失格」「お金の問題じゃない」という言葉。そして、「不戦勝で世界王者にすべき」という声について、元選手、今はトレーナーという立場から考えていきます。
「プロとして失格」は、最低限のルールの話
ボクサーは、試合当日だけ頑張っているわけではありません。
その一戦に向けてめちゃめちゃ練習して、体重を落として、コンディションを整えています。
今回はフィゲロア選手が体重超過しましたが、それでも和毅選手が勝てばチャンピオンになれるという条件で、試合をする方向に決まっていました。
それが当日になってキャンセルです。本当にかわいそうだと思います。寺地拳四朗選手の試合が当日に中止になったときも、同じように感じました。
和毅選手の「プロとして失格」という言葉については、体重を守ることも、試合に向けて準備することも、最低限のルールだと思います。
正直、「やるって言ったらやれよ」という気持ちはあります。
選手は、いつも100%のコンディションで試合ができるわけではありません。むしろ、そういう状態で試合に臨めることの方が少ない場合もあります。
僕自身、計量の前日に倒れたこともありますし、試合の1週間前に足の靱帯を伸ばしたこともあります。歩くだけでも痛い状態でしたが、それでも試合はしました。
実は、体重超過が分かった時点では、和毅選手にとってチャンスになるかもしれないと思っていたんです。
フィゲロア選手のコンディションがよくないのではないかと考えたからです。ただ、試合中止になるとは思っていませんでした。
相手陣営には、まず謝罪をしてほしい
和毅選手は、本人が対応できなくても、陣営を通して言葉を交わすことはできたはずだと話しています。
直接の謝罪があったのかどうかは分かりませんが、相手側がまずするべきことは、謝罪だと思います。
試合に挑む気持ちを、台無しにされてしまったわけですから。
コンディションをつくれなかったことについて、まず相手に言葉を伝える。本人が対応できなければ、陣営からでも伝える。
それは最低限、やらなければいけないことだと思います。
35歳という年齢以上に、次のチャンスが見えないことが重い
今回の中止は、35歳という年齢もそうですが、フェザー級で世界戦にこぎつけること自体が大変だという問題もあります。
チャンピオンが人気選手だったりするので、挑戦の機会を得るまでが、そもそも簡単ではありません。
今回なくなったからといって、すぐ次の世界戦ができるとは限らないんです。
今年中にできるのか。来年の頭にはできるのか。その時期が確約されていないことが、和毅選手にとってはつらいところだと思います。
次の王座決定戦で優先権を与えるという話もあったようですが、収録時点では、具体的にどうなるか分かりませんでした。
本人は前を向くコメントを出しています。それでも、気持ちを切り替えるのは大変だろうと思いますし、これで折れてしまったら、本当にかわいそうです。
年齢を重ねれば、けがや疲労の回復、体重の落ち方なども変わってきます。
僕自身は35歳まで現役を続けていないので、その年代での調整は経験していません。ただ、生活していても疲れが取れにくくなることはありますし、若い頃と同じような無理はできなくなると思います。
その分、しっかり考えて調整していく必要があるのでしょう。
数か月で大きく状態が変わるとは限りません。僕が気になるのは、その数か月のうちに、次のチャンスが本当に来るのか分からないことです。
戦って負けることと、戦えずに終わることは違う
試合当日の朝は、もう気合いが入っています。
「今日は試合だ」「今日、チャンピオンになるんだ」という気持ちでいるところに、「やっぱり今日はなし」と言われる。
僕には想像がつきませんが、ポカーンとしてしまうと思います。
実際に戦って負けたのであれば、勝負の世界なので仕方がありません。
「勝負をして負けた」「チャンピオンになれなかった」という結果を、受け止めることはできます。
でも今回は、試合をしていないのに、チャンピオンになる機会がなくなってしまった。そのむなしさは、敗戦とは違うと思います。
和毅選手の「お金の問題じゃない」という言葉も、よく分かります。
選手は、お金のためだけにやっているわけではありません。自分の夢は、お金で買えるものではないからです。
ファイトマネーなどは、最低限保障されるべきです。
ただ、お金が入ったとしても、勝ち取ったファイトマネーではありません。試合ができなかったことや、チャンピオンになれなかったことへのむなしさは、それとは別に残ると思います。
不戦勝で世界王者にすることには、違うかなと思う
「和毅選手は計量を守ったのだから、不戦勝で世界王者にしてもいいのでは」という意見もあります。
ただ、僕はそれについては、違うかなと思います。
チャンピオンから勝ち取ったわけでも、上位選手との王座決定戦に勝ったわけでもありません。それで世界王者になって、本人がうれしいのかというと、そうではないと思うんです。
一方、計量に失敗した選手に負けをつけることは、ありだと思います。
でも、相手に負けがつくことと、不戦勝で自分がベルトをもらってうれしいかどうかは、別の話です。
僕が世界戦に挑む立場だったとして、相手が体重超過や体調不良で試合をできなくなり、「あなたがチャンピオンです」とベルトを渡されても、「いやいや、勝ち取っていないし」と思ってしまいます。
僕だったら、そういうベルトはいらないです。
不戦勝は、ボクサーが望んでいる勝ち方ではないと思います。
最後の400グラムは、普段の400グラムとは違う
今回の体重超過について、「約400グラムで、そんなに違うのか」という疑問もありました。
そこは、選手の状態によります。
僕も現役時代、計量当日の朝に、200グラムを落とすだけでかなり苦労したことがあります。
銭湯で半身浴をして、その後にサウナにも入ったのですが、なかなか汗が出ませんでした。結局、1時間ぐらいは銭湯にいたと思います。
一緒にサウナに入っていた人から、「なんでそんなに汗をかかないの?」と言われたぐらいです。
体がカラカラになっていると、それほど汗が出なくなることがあります。
普段の生活なら、寝て起きただけで400グラムぐらい落ちていることもあります。でも、絞り切った状態での最後の400グラムは、それとは違います。
きついときは、本当にきついです。
当日の体重戻し制限は、僕は危ないと思う
今回は、フィゲロア選手の試合当日の体重にも上限を設ける予定でした。
ただ、体重戻しの制限については、いつ体重を測るかによって話が変わります。
当日の朝に測るのであれば、その後、試合までに回復させる時間があります。一方で、試合の直前まで制限されるなら、僕は危ないと思います。
例えば、普段は試合までに7キロ戻す選手が、4キロしか戻せないとします。
その選手にとっては、普段より3キロ戻っていない状態です。僕は、十分に回復できず、脱水した状態で試合をすることになるのではないかと考えます。
体重戻しを制限する背景には、「計量に失敗した選手は、相手より楽をしてきたのではないか」という見方があると思います。
でも、必ずしもそういうわけではないんです。
体重超過したからといって、きつい減量をしていなかったとは限りません。
そこから戻し制限をかけることで、試合当日は、計量をクリアした選手の方が重くなる場合もあります。僕としては、それもフェアではないと感じます。
健康面でも心配があるので、戻し制限は、正直いらないと思っています。
陣営にも責任はあるけれど、最後は選手本人
トレーナーは、選手の私生活をずっと見ていられるわけではありません。
ジム以外でどれだけ動いているのか、何を食べているのか。そこまで管理しきれない部分はありますし、選手を信じるしかないところもあります。
もちろん、陣営に責任がないとは思いません。
ただ、僕自身が選手だったこともあり、結局は選手本人の責任だと考えています。減量をするのも、体重を落とすのも本人だからです。
試合の1か月前であれば、残り何キロなのかを確認します。その時点で大きな問題があれば、まだ対応のしようがあります。
でも、計量の前日になって「もう落ちません」と言われても、こちらとしてはできることが限られます。
僕も、本当に必死になって体重を落とした経験があります。最後まで汗や唾で少しでも落とそうとしたこともありました。
そうした経験からすると、400グラムであれば、何とか落とせるのではないかと思う部分はあります。
厳罰化すれば、体重超過はなくなるのか
動画では、半年間のライセンス停止という対応について、僕は甘いと感じると話しました。
半年ほど試合をしないことは、選手によっては普通にあるからです。
相手選手へのファイトマネーの譲渡や、より長いペナルティを科すことは、考える必要があると思います。
また、救急搬送などで計量会場に来なかった場合も、それだけで仕方がないとするのではなく、計量をクリアできなかったこととして考えるべきだと思っています。
ただ、罰則を強めれば体重超過がなくなるかというと、そうではないとも思います。
罰則が重くなることで、選手が無理な減量を続け、本当に倒れてしまうことも考えられます。ここは難しいところです。
一方で、試合が決まった以上、体重は守らなければいけません。体重制の競技なので、それは最低限のルールです。
人間なので、体調不良になることはあります。最後の数百グラムが、その日の体調によって難しくなることもある。それでも落とす選手は落とします。
この問題は、多分、体重制競技にとって永遠のテーマだと思います。
減量を禁止するルールにしたとしても、減量する選手はいるでしょう。ONEが取り入れているハイドレーションテストについても、それを導入すればすべて解決するとは思いません。
安保瑠輝也選手がテストを通過できなかった件では、体質によるものだという話も聞きました。
簡単に解決できる問題ではないと感じています。
次に向けて、まずは一度リフレッシュさせたい
僕が和毅選手の担当トレーナーだったら、まず一度リフレッシュさせます。
約2か月半、気を張り詰めて、節制してきたと思います。体だけでなく、気持ちにも相当なストレスがかかっているはずです。
まず少し休んで、そこから切り替えて次に向かう。
今回の試合に向けた練習は、絶対に無駄にはならないと思っています。
試合に向けているときは、一番気合いが入っています。その練習を通して、強くなっていますし、成長もしているはずです。
その成長を落とさず、次に生かせるように、リフレッシュした後は練習を再開していくと思います。
次の対戦相手が決まっていない間は、相手の対策をする必要がありません。
だからこそ、自分に足りないところや、もっと伸ばしたいところに集中できます。その期間も集中力を保ち、自分を伸ばしていくことが大切です。
和毅選手には、早く次の世界挑戦の機会を
もう一度世界戦に向かううえで、大きな負担になるのは、一度落ちた気持ちを再び高めることだと思います。
お金については、ファイトマネーの保障があれば何とかなる部分もあるでしょう。あとは年齢も考えて、次の試合が早く決まることが大切です。
相手への厳罰だけでなく、準備してきた和毅選手が報われる仕組みが必要だという意見には、僕も賛成です。
今回のことがあったのに、その後は何もなく、次のチャンスも来ない。それは、かわいそうですし、よくないと思います。
世界戦や王座決定戦への優先権は、あるべきです。
ただ、和毅選手がランキング3位であることから、王座決定戦の組み方がどうなるのかという問題もあります。
1位と2位で決定戦を行い、その後に和毅選手へ指名挑戦権を与えるのか。収録時点では、具体的な順番は分かりませんでした。
それでも、当日中止は選手にとって一番きついことだと思います。和毅選手はランキングでも上位にいるので、優先的に挑戦の機会が与えられるべきだと考えています。
フェザー級には強い日本人選手がいますし、井上尚弥選手も含め、今後どう絡んでいくのか楽しみな階級です。
和毅選手には、今回のことで気持ちを折らず、もう一度世界タイトルを目指して頑張ってほしいです。
そして、そのためのチャンスが早く来てほしいと思っています。
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【この記事を書いた人】
アマチュア実績全国3位(東洋大)
元プロボクサー
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第43代OPBF東洋太平洋バンタム級王者
ボクシング特化型パーソナルトレーナー
世界・東洋・日本チャンピオン10名輩出
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キックボクサー世界チャンピオン指導
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