
9月27日、坪井智也選手がリカルド・マラジカ選手とのWBC世界スーパーフライ級王座決定戦に臨み、1-2の判定で敗れました。
僕は試合前、坪井選手が圧倒すると予想していました。
坪井選手のファンとしても期待していたので、結果はかなりショックでした。ただ、試合を見終えてまず感じたのは、マラジカ選手が予想以上に強かったということです。
初回の出血が坪井選手にどう影響したのか、8回までリードしていた試合がなぜ逆転されたのか。
僕が見た両選手の攻防を振り返ります。
マラジカ選手が最後まで崩れなかった

試合前は、坪井選手のジャブやプレスを受けて、マラジカ選手がもっと崩れると思っていました。中盤くらいからは一方的な展開になるのではないかと見ていたんです。
でも、マラジカ選手は本当に崩れませんでした。スタミナもありましたし、パンチも最後まで生きていました。強かったですね。
坪井選手については、1ラウンドから「そんなに行くのか、行き過ぎだろ」と思うくらい前に出ていました。僕には少し力が入っていて、いつもより雑に見えたんです。
もう少し丁寧に組み立てていくと思っていました。
最初から思い切り圧力をかけようとしたのかどうかは分かりませんが、そう感じました。
初回の出血と、やりにくそうに見えた距離

初回のバッティングでは、かなり出血していると思いました。ただ、その出血が動きにどれだけ影響したかは分かりません。
それとは別に、今回は坪井選手のボクシングに、いつもの丁寧さや緻密さが少なかったように見えました。突っ込み過ぎたことでバッティングになったのかもしれませんし、その後もちょっと突っ込む場面が多かったと思います。
距離の面でも、坪井選手があれほどやりにくそうにしていたのは意外でした。
マラジカ選手が思った以上に強かったのか、遠かったのか。
マラジカ選手のジャブとストレートは怖かったですね。アッパーもあり、坪井選手より射程距離が長い。スピードもありました。
坪井選手がそれほどクリーンヒットをもらっていたとは思いません。それでも、遠いところから打てるマラジカ選手のパンチには怖さがありました。
坪井選手の攻撃は通用していた

中盤までは、相手に大きなダメージを与えるところまではいかなくても、坪井選手のジャブや右には、ポイントを取れそうな見栄えのいい攻撃がそれなりにあったと思います。
右がガツンとクリーンヒットする場面は少なかったように見えましたが、僕なら坪井選手につけるラウンドもありました。
危ないクリーンヒットをそこまでもらわず、試合を作っていたのは坪井選手だと感じたからです。
ただ、もう少しボディを打ってもよかったのかなと思います。
得意の連打も、今回は強いパンチが入っていなかった印象です。もともと一発の強打を打つタイプというより、速く打つタイプだと思いますが、もう少しダメージを与えられれば、相手も落ちてきたかもしれません。
特に中盤以降は、ジャブとボディがもっと効いてきてもよかったのではないかと思いました。
マラジカ選手はリーチが長く、懐深く構えて、坪井選手の入り際を狙っていたようにも見えました。遠いところから狙えるのは、やはり強みです。
8回以降に減ったジャブとフェイント

8回終了時の採点は坪井選手が優位でしたが、点差は大きくありませんでした。勝っているので焦る必要はない。ただ、丁寧に戦って、大きく崩れてはいけないと思いながら見ていました。
9回以降は、坪井選手が少し雑になったように感じました。
フェイントやジャブが減ったように見えて、「ジャブだよ」と思っていたんです。足の細かい出入りも、坪井選手の大事な武器だと思いますが、だんだん大ざっぱになっていったように見えました。
疲れもあったのだと思います。出血の影響や、多少のダメージがあったのかもしれません。その中でも、疲れは目立っていたと感じました。
マラジカ選手からすれば、8回終了時点で坪井選手を支持していたジャッジ2人の採点をひっくり返さなければ勝てません。
残り4ラウンドを取るつもりで、ペースを上げたのではないかと思います。
そのとき、坪井選手は距離を縮めるまでの工夫が少し減ったように見えました。マラジカ選手にとってはパンチを打ちやすくなり、攻勢点も稼ぎやすくなったのではないでしょうか。
終盤は「倒す必要もなかった」

7ラウンドの右目上のカットが、その後の攻防にどう影響したかは、本人の話を聞いていないので何とも言えません。血が目に入って距離感をつかみにくくなり、フェイントやジャブを減らして、より圧力をかける方に切り替えたのかもしれません。
多少は、見え方やメンタル面への影響もあったと思います。
ただ、坪井選手が実際にどう判断していたかは、本人と陣営にしか分からないことです。
そのうえで、最後まで坪井選手の圧力に折れず、自分のボクシングを徹底したマラジカ選手が強かったと思います。
坪井選手が終盤もポイントを取るために必要だったのは、僕はフェイントとジャブだと思います。
強引になる必要も、倒す必要もありませんでした。8回を終えた時点でジャッジ2人の採点では勝っていたので、残り4ラウンドのうちあと2つを取れば勝てる状況です。
冷静にポイントを計算して、もらわずにジャブを当てる戦い方でもよかったのかなと思います。
もちろん、ジャブを当てにくかったのかもしれないし、打ちにいったのかもしれない。出血で見えにくかった可能性もあります。外から見ていた僕には判断できません。ただ、少し雑になったのはもったいないと感じました。
最後の4ラウンドの採点は、坪井選手には厳しいかなと思いました。マラジカ選手は一発一発をしっかり打っていて、パンチの見栄えがいい。あとはリングサイドのジャッジにどう映ったかだと思います。
プロの試合で求められるパンチ

マラジカ選手の強さが一番表れていたのは、やはり崩れなかったことです。坪井選手の圧力やテンポについていき、最後まで右のパンチには怖さがありました。ジャブもしっかり出ていました。
坪井選手のボクシングも、全体的には通用していたと思います。ただ、取り切れなかった。プロの試合では、相手にダメージを与えることがもう少しあってもよかったのかなと思います。急所を狙うということも含めてです。
特に8回以降は、もう少し丁寧に戦ってもよかったと感じます。
アマチュアボクシングでは、パンチを強く当てても軽く当てても、ポイントが変わらない面があります。
坪井選手自身も、強く打つためのパンチの打ち方を練習したことがない、というような話をしていたと思います。
プロでは相手にダメージを与えることも必要なので、そこは改善点というより、伸びしろなのかなと思います。
例えば、アマチュアからプロに来て世界チャンピオンになったリゴンドーは、パンチをしっかり打って相手を倒します。
ロマチェンコも、相手がギブアップするような試合をしていましたし、パンチ力があると聞きます。派手に倒した場面も見ています。坪井選手も、そうした攻撃力を今のボクシングにプラスしていく必要はあるのかもしれません。
ダメージで相手を削り、心を折ることも、プロでは多少必要です。
今回、坪井選手が実際にどれほどダメージを負ったかは分かりません。ただ、マラジカ選手のパンチはダメージを与えるような打ち方で、見栄えやインパクトがありました。
プロの試合では、軽いパンチより、しっかり打ったパンチが評価されるところもあると思います。
「まだまだこんなもんじゃない」

もし再戦するなら、坪井選手は最後まで自分のボクシングを徹底し、ポイントを取って勝つ戦い方でも勝てると僕は思います。新たな武器を身につけ、今のボクシングにプラスしていく方法もあります。
坪井選手はアマチュアで世界一になった選手です。ポテンシャルはものすごいと思います。
一方で、長く続けてきたボクシングだからこそ、大きく変えるのは難しい部分もあるはずです。
完全に変えようとして崩れてしまうより、今のボクシングの使い方やポイント計算を少し修正するだけでも、僕は勝てるのではないかと思っています。まだまだこんなもんじゃないです。
プロとアマチュアではラウンドの長さが違いますし、試合が進むにつれてダメージや疲れもたまります。
今回は後半に少し失速したように見えたので、ペース配分も含めて、この試合を今後の糧にしてほしいですね。
3ラウンドと12ラウンドでは、本当に世界が変わります。難しい面もあったと思います。
それでも、坪井選手はあの技術でアマチュアの世界一を取った選手です。僕はプロでも世界一になると思っています。
敗戦を受けて「大したことない」といったコメントもありますが、僕は気にしなくていいと思います。坪井選手の可能性をすごく感じていますし、「こんなもんじゃねえだろう」と思っています。
マラジカ選手は新チャンピオン、おめでとうございます。
一方で、今回の坪井選手の敗戦は、昨日の試合の中で僕にとって一番ショックでした。アマチュア時代から知っている選手ですし、厳しい世界で世界一になったことを本当にリスペクトしています。
これからも、坪井選手に期待しています。
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【この記事を書いた人】
アマチュア実績全国3位(東洋大)
元プロボクサー
世界ランキング最高7位
第43代OPBF東洋太平洋バンタム級王者
ボクシング特化型パーソナルトレーナー
世界・東洋・日本チャンピオン10名輩出
キッズボクサー全国チャンピオン5名輩出
キックボクサー世界チャンピオン指導
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