
10月29日、東京・後楽園ホールで行われた54.0キロ契約8回戦で、坂井優太選手がペッチ・ソー・チットパッタナ選手に4回2分KO勝ちを収めました。
井上拓真選手、中谷潤人選手との世界戦を経験した相手を倒し、プロ戦績を9戦9勝(8KO)としています。
「ネクストモンスター」と呼ばれる坂井選手の強さは、どこにあるのでしょうか。
今回は、ボクシングトレーナーの椎野大輝が、スピードやディフェンス、決着につながった左のパンチ、そして今後の注目点について解説します。
長身サウスポーにスピードとキレが加わった強さ
今回の試合で、まず印象に残ったのはパンチのキレです。
僕は坂井選手がアマチュアからプロに転向する頃から注目していました。
あれだけ速く、足も使えて、身長も高いサウスポーです。戦う側からすると、めちゃくちゃ嫌な相手だと思います。
僕の目線でも、すごく戦いにくいタイプです。
身長とリーチがあり、スピードもパンチのキレもある。今回は、そうした持ち味を生かした強さが出ていたのではないかと思います。
「ネクストモンスター」と呼ばれていますが、動きの躍動感もすごいです。
坂井選手はアマチュアで世界ユースのチャンピオンになっています。その年代の世界トップに立つ技術があり、さらにあのパンチのキレもある。これは強いと思います。
試合前から感じていたスピードの差
試合前は、坂井選手が勝ちに徹すれば、ペッチ選手はそれほど難しい相手にはならないのではないかと思っていました。スピードに差があるからです。
ただ、ペッチ選手にはキャリアとタフさがあります。プロで80戦以上も戦っている選手ですから、その経験の怖さはあります。苦しめられる場面はあっても、坂井選手が勝つのではないかと見ていました。
ペッチ選手は拓真選手と12ラウンドを戦い、中谷選手には6回TKOで敗れています。その相手を坂井選手は4回で倒しました。
早く倒せば、より強いというわけではありません。それでも、あのタフな相手をしっかり倒して勝ったことは、評価されるべきだと思います。
比較が難しいのは、世界戦であれば相手のモチベーションもめちゃくちゃ高かったはずだという点です。
そこには差があると思います。それを踏まえても、今回は坂井選手の強さと速さが目立ちました。
ペッチ選手は、そこまでスピードのあるタイプではありません。
坂井選手に対抗するには、もう少しスピードで対抗するか、もっとがむしゃらに自分の戦いへ巻き込むか、何かが必要だったと思います。
ディフェンスもフットワークも、すべて一級品
KOまでの早さ以外では、「パンチをもらっただろうか」と感じるほどのディフェンスが印象に残りました。
ディフェンス力、フットワーク、パンチのキレ、スピード。どれも一級品です。どこが強いかと聞かれれば、全部が強いと思います。
ただ、相手の戦いに巻き込まれたときにどうなるかは、見てみたいところです。フィジカルが強く、打たれ強い相手に巻き込まれた場合、どう対応するのでしょうか。
ペッチ選手としては、そうした展開に持ち込む必要があったと思います。今回のような戦い方では、坂井選手の持ち味が出ます。
スピードもあり、パンチも切れ、フットワークもある。そのどこかを潰さなければ、坂井選手の良さが際立ちます。もちろん、実際に坂井選手は強かったと思います。
踏み込みを迎え撃たせない速さとフェイント
ペッチ選手が坂井選手の踏み込みを迎え撃ちにくかったのは、まずスピードの差があったからです。
加えて、打つ前のフェイントもあり、タイミングを取りにくかったのではないかと思います。長身サウスポーで、あの速さはずるいと感じるほどです。
一方、坂井選手はボディーワークで次々とパンチを外すタイプではありません。
基本的にはフットワークを使い、ガードをしっかり固めたまま足を動かしています。相手からすると、すごく打ちにくいスタイルだと思います。
パンチはシャープで、攻撃に出れば打ち返されます。
そのパンチもすごく速く、しかも長身のサウスポーです。僕自身、すごく戦いたくないスタイルですし、ペッチ選手から見ても同じだったのではないかと思います。
「ガードでいける」と判断する基準
坂井選手は、手を合わせた瞬間に「ガードでいける」と思ったそうです。その判断の基準になるのは、相手のパンチ力です。
実際に受けてみると、「この相手のパンチはガードで受けてはいけない」と感じることがあります。
一方で、「このパンチ力なら、ガードしておけばひとまず大丈夫だ」と思えれば、気持ちに余裕が生まれます。
ガードしても危ないほどのパンチ力であれば、空振りさせる必要があります。そうなると、よりリスクを取りにくくなりますし、自分から攻撃するときにも怖さが出てきます。
強いパンチを空振りさせるには、ボディーワークとステップワークを使います。ブロッキングだけでは、自分の体勢が崩れたり、ダメージが蓄積したりするからです。
坂井選手の場合は、両手でしっかりガードしながら、足も一緒に使っています。そのため、パンチをまともには受けていません。
ブロッキングした際に、ときどき足が止まる場面は少し怖いと感じます。それでも、フットワークと組み合わせているので、相手が強いパンチを打ちにくいガードの仕方だと思います。
接近戦への自信が、強気のアウトボクシングにつながる
今回の試合に向けて、坂井選手は堤聖也選手とのスパーリングで、あえて接近戦も試したそうです。
「接近戦になっても大丈夫」と思ってボクシングをするのと、「絶対に接近戦はしたくない」と思いながらアウトボクシングをするのとでは、攻撃の積極性が変わります。
積極的に攻める中では、どうしても距離が近くなることがあります。そのときにも大丈夫だと思えれば、強気のアウトボクシングができます。そのために、接近戦への自信をつけておくことは大事だと思います。
今回はペッチ選手もサウスポーでした。サウスポー同士では距離が近くなりやすく、攻防の距離がかみ合う場面が出てきます。
僕が坂井選手と戦うのであれば、長身サウスポーを相手に、距離が遠いままになりやすいと思います。しかし、ペッチ選手の場合は同じサウスポーなので、もう少し距離が近くなります。そこを考えて、接近戦も練習しておこうということだったのではないかと思います。
強い相手につかまったとき、どう受けて返すのか
今後、世界の上位選手と戦う上では、ブロッキングしたときに、どれほどガードの耐久力を保てるのかが気になります。
坂井選手は基本的に少し重心が高めで、動きながらガードしています。今回はまともにパンチを受けていませんが、強い相手と戦えば、どうしてもつかまる場面は出てくると思います。
そのときに、足を止めてしっかりブロッキングし、受けてから返すことができるのか。そこは今後、試行錯誤していく部分だと思います。
スタイルとしては、ガードに大きく頼るよりも、スピードを生かして戦うタイプでしょう。それでも、つかまった場面でどれだけしっかり戦えるのかを試す試合があってもよいのではないかと思います。
最後の左は、角度と当たったタイミングがよかった
最後の左は、当たった位置もタイミングも、めちゃくちゃよかったと思います。だからこそ、あの倒れ方になったのでしょう。
特に左の角度がすごくよく、貫通力がありそうな当たり方でした。
サウスポー同士ということもありますし、ペッチ選手はブロッキングで固まるタイプでもありません。
そのため、左のクロスが当たる可能性はあると思っていました。左ボディーや左アッパーの打ち分けも使えるのではないかと見ていました。
それまでに攻撃を散らしていたからこそ、最後の左が当たった部分もあると思います。ただ、最後は相手の力がふっと抜けるような、倒れるタイミングで当たっていたように感じました。
ペッチ選手は、見えていないパンチを受けたときの倒れ方をしています。あれは一番効く当たり方だと思います。
KOを狙わず、勝ちに徹した判断
坂井選手は「KOは狙っていなかった。判定でも勝ちに徹しようと思っていました」と話しています。
もともと、坂井選手は無理に倒しにいくタイプではないと思います。
今回は相手が世界6位で、坂井選手より上位の世界ランカーでした。勝てばランキングの上昇につながる相手ですから、勝ちに徹するのは正しい判断だと思います。
KOでも判定でも、まずは勝つことが大事です。その上で、最後にクロスで倒し切ったことで、さらに評価が上がるでしょう。結果として、よい形になったと思います。
世界の上位選手との戦いで、まだ見えていない部分
スピード、キレ、タイミングを生かした遠い距離での攻防では、坂井選手はめちゃくちゃ強いと思います。
一方で、堤聖也選手のようなスタイルの相手に巻き込まれたとき、どうなるのかは気になります。
世界戦の12ラウンドという長い試合の中で、何度もそうした展開になり、我慢比べを求められた場合にどうなるのか。その部分は、まだ試されていないと思います。
パワーがあり、タフな展開に持ち込んでくる相手には、苦労するのではないかと思います。ただ、そうした試合も見てみたいです。
井上尚弥選手との比較を離れて考えても、長身サウスポーであること、スピード、パンチのキレは、坂井選手ならではの強みです。このあたりは超一級品だと思います。
今のバンタム級には、強い日本人選手がたくさんいます。その選手たちとの戦いも見てみたいです。特に個人的には、伊藤選手との試合に興味があります。
地域タイトル戦で経験してほしいこと
大橋会長は、次の地域タイトル挑戦を見据えながら、坂井選手を大事に、じっくり育てていると話しています。
僕の認識では、日本で世界戦に進むには、日本タイトルや東洋太平洋、WBOアジア・パシフィックなどのタイトルを取る必要があります。
また、タイトルマッチになれば、相手の気合いの入り方も変わります。そうした試合で苦戦する経験も、積むべきではないかと思います。
じっくり育てる方針であれば、すぐに世界戦へ進むわけではないのかもしれません。ただ、今回は世界ランキング上位の選手に勝ちました。坂井選手自身も上位に入ると思いますし、世界戦や挑戦者決定戦の話が来る可能性もあるのではないかと思います。
今後どう進んでいくのか、注目したいです。個人的には、やはり伊藤選手との試合を見たいと思っています。
伊藤選手には挑戦者決定戦と、その先の日本タイトル戦があると思うので、すぐには実現しないかもしれません。それでも、僕としてはすぐにでも見たいカードです。
技術と華を備えた坂井優太選手の今後に注目
坂井選手には、アマチュアで世界ユースを制した技術があり、スピードにも華があります。見ていて魅力のあるボクシングです。
それに、顔もいいと思います。片岡選手や井上尚弥選手もそうですが、顔がいいというのはずるいと感じます。顔のよさか、際立ったキャラクターか、どちらかは欲しいところです。
坂井選手は顔もよく、ボクシングもかっこよくてスタイリッシュです。人気が出ると思います。
これから、強い選手との試合を見たいです。僕は伊藤選手との対戦に興味がありますが、日本タイトルや東洋太平洋、アジアのタイトルに、早い段階で絡んでほしいと思います。
坂井選手はデビューの頃から注目されていましたし、僕もすごく強い選手だと思って見ていました。今回も、ものすごく強い勝ち方でした。また評価が上がるのではないかと思います。
今後は日本タイトルや地域タイトルに絡み、そこから世界戦線へ進んでいくのだと思います。
ただ、今回は世界6位の選手に勝ったので、ランキングもかなり上位に入るのではないかと思います。どのような道を進むのか、注目していきたいです。
バンタム級には、本当に強い日本人選手が多くいます。そうした選手たちとの対戦も含めて、ぜひ坂井選手に注目してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。youtubeの高評価、チャンネル登録、コメントもよろしくお願いします。
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【この記事を書いた人】
アマチュア実績全国3位(東洋大)
元プロボクサー
世界ランキング最高7位
第43代OPBF東洋太平洋バンタム級王者
ボクシング特化型パーソナルトレーナー
世界・東洋・日本チャンピオン10名輩出
キッズボクサー全国チャンピオン5名輩出
キックボクサー世界チャンピオン指導
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