
先日、那須川天心選手との再戦に向けて行われた、井上拓真選手の公開練習について話しました。
その後、細川バレンタインさんが「実は井上尚弥に勝てるのは拓真だけ説」という動画を出していて、非常に魅力的なタイトルだと思いました。
もちろん、井上尚弥選手と拓真選手が実際に戦う可能性はないでしょう。
ただ、現在の二人を技術的に比較したとき、どのような試合になるのか。今回は“井上兄弟対決”を本気で考えてみたいと思います。
- 1. 兄弟対決を行うなら何階級が公平なのか
- 2. スパーリングと8オンスの試合では話が変わる
- 3. 拓真は尚弥にスピード負けしない
- 4. 動きは似ていても、攻守の比重が違う
- 5. 尚弥の強さを知っていることは拓真の武器になる
- 6. 単純なディフェンス力なら拓真が上の可能性もある
- 7. 拓真の勝機は中間距離とカウンター
- 8. カウンターを待つだけでは尚弥に読まれる
- 9. 尚弥はジャブから丁寧に崩していく
- 10. 勝負を分けるのは尚弥のジャブ
- 11. 天心との再戦で拓真の現在地が分かる
- 12. 尚弥と勝負になるために必要な天心戦の内容
- 13. 現時点では尚弥の判定勝ちか中盤以降のストップ
- 14. 尚弥に最も勝てる可能性があるのは拓真なのか
- 15. 評価が上がったのではなく、拓真の強さが認知されてきた
兄弟対決を行うなら何階級が公平なのか

今まで、尚弥選手と拓真選手の試合を想像したことはありませんでした。現実ではあり得ない、まさにドリームカードだからです。
まず難しいのが、どの階級で戦うのかという問題です。
拓真選手はバンタム級、尚弥選手はスーパーバンタム級です。バンタム級に合わせると尚弥選手の減量が厳しくなりますし、スーパーバンタム級にすれば、今度は尚弥選手が有利になります。
二人の間を取ってキャッチウェイトにする方法もありますが、現実的には体重を落とせない選手に合わせることが多いため、スーパーバンタム級になるのではないでしょうか。
スーパーバンタム級で戦ったとしても、僕は非常に面白い試合になると思います。
二人はスタイルが似ていますし、お互いの手の内も分かっています。「こう来たら、こうするだろう」ということまで理解しているはずなので、実際に戦ったらどのような展開になるのか、非常に興味があります。
スパーリングと8オンスの試合では話が変わる

僕は以前から、ヘッドギアを着けたスパーリングであれば、二人にそこまで大きな差は出ないのではないかと思っていました。
スパーリングではグローブが大きくなり、尚弥選手の一発が持つ殺傷能力や、それを受けるリスクが少し下がります。その条件であれば、拓真選手と尚弥選手が戦っても、かなり面白い内容になると思います。
ただし、8オンスのグローブを着けた本番の試合となると、話は変わります。
僕はもともと拓真選手を非常に高く評価しています。当然、尚弥選手の評価もものすごく高いです。そのうえで、実戦では一発が持つ殺傷能力の差が大きく影響すると考えています。
スパーリングなら本当にいい勝負になると思いますが、8オンスで12ラウンドを戦う場合、尚弥選手の攻撃力は別格です。
拓真は尚弥にスピード負けしない

尚弥選手は、ものすごくスピードがあります。
そのスピードにパンチ力が加わるため、対戦相手は簡単に手を出せなくなります。手を出そうとすれば速いカウンターが返ってきて、しかも、その一発に非常に大きな威力があります。
多くの対戦相手は、まずスピードで負けています。そのため、試合が進むにつれて手を出せなくなっていきます。
しかし、拓真選手は尚弥選手に対して、そこまでスピード負けしないと思います。もしかすると、同じくらい速いのではないかと僕は考えています。
尚弥選手が、自分と同じくらい速い相手と戦ったらどうなるのか。ここが、この仮想対決が面白くなる大きな理由です。
動きは似ていても、攻守の比重が違う

二人は、動きや構え、ステップの取り方が非常によく似ています。体型もほとんど同じに見えます。
共通しているのは、バランスとステップ、そしてジャブとワンツーを大切にしているところです。
その一方で、尚弥選手の方が攻撃的で、拓真選手の方がディフェンシブな印象があります。また、攻めているときの重心は、尚弥選手の方が少し低く見えます。
尚弥選手からすると、拓真選手は自分と同じタイプの選手と戦う感覚になると思います。
拓真選手は相手の攻撃を空回りさせることが上手いため、尚弥選手の攻撃にもある程度対応できる可能性があります。ただし、拓真選手の攻撃が尚弥選手に当たるのかという問題もあります。
二人の動きが似ていることが、どちらか一方に有利に働くわけではありません。
ずっと一緒に練習してきたからこそ、お互いが何を狙っているのか分かりやすいはずです。自分が狙っていることは、相手も狙っているだろうと考えるでしょう。
そのため、お互いに攻めにくく、パンチも当てにくい試合になると思います。
尚弥の強さを知っていることは拓真の武器になる

拓真選手は、尚弥選手のスピードやタイミングに慣れていることも、いい試合になると考える理由の一つです。
ただし、兄弟であることがメンタル面にどのような影響を与えるのかは分かりません。
拓真選手は、圧倒的な実績を残している兄と長い間比較されてきました。「兄だから仕方がない」と感じているのか、それとも「兄だからこそ超えたい」と考えているのか。その捉え方によっても変わります。
尚弥選手にとっても、拓真選手は大切な弟です。
二人は非常に仲が良さそうですし、尚弥選手はいいお兄さんに見えます。拓真選手からも、尚弥選手に対する強いリスペクトが伝わってきます。
その一方で、超えたい目標やライバルとして見ている部分は、拓真選手の方が強いのではないでしょうか。
僕自身、現役時代に何度もスパーリングをしたことのある選手と試合をした経験があります。スパーリングでは僕が優勢だったため、「大丈夫だろう」と油断してしまった記憶があります。
相手を知っていることが必ずしも有利になるとは限りません。過去の感覚が油断につながる可能性もあります。
単純なディフェンス力なら拓真が上の可能性もある

尚弥選手は攻撃的に試合を作り、拓真選手はディフェンスからもボクシングを作ることができます。
もちろん、尚弥選手もディフェンス能力の高い選手です。ただ、尚弥選手の守備は、攻撃と一体になったディフェンスです。ディフェンスだけに徹した場面をあまり見せていません。
単純なディフェンス力だけを比べれば、拓真選手の方が上手い可能性もあると、個人的には思っています。
尚弥選手と戦う選手は、その攻撃力を警戒するあまり、守りに入ってしまうことがあります。拓真選手なら、尚弥選手の連続攻撃をすべて避けることは難しくても、これまでの対戦相手より被弾をかなり減らせるのではないでしょうか。
しかし、守っているだけではポイントを取れません。
尚弥選手からクリーンヒットを奪うことも簡単ではありません。拓真選手が倒されないことだけに徹すれば、最後まで裁き切れる可能性はあります。ただ、勝つためには、どこかでリスクを冒してポイントを取りにいかなければなりません。
尚弥選手に攻め込まれ、拓真選手がポイントを取られていく展開は想像できます。一方で、尚弥選手が拓真選手に攻め込まれ、ポイントを持っていかれる展開は、今のところあまり想像できません。
ここが拓真選手にとって非常に難しいところです。
拓真の勝機は中間距離とカウンター

距離で考えると、ロングレンジでは尚弥選手の方が強いと思います。
拓真選手にとっては、ロングレンジよりも少し近い中間距離の方が勝機を見いだせるのではないでしょうか。
お互いに手の内が分かっているため、普通にカウンターを狙っても簡単には当たりません。相打ちになるようなタイミングや、尚弥選手が入ってくる瞬間を狙う必要があります。
拓真選手が尚弥選手に勝つとすれば、入り際にカウンターを合わせ、一発で流れを変える形が最も現実的だと思います。
尚弥選手の打ち終わりを狙うのは、かなり難しいでしょう。そのため、尚弥選手が入ってくるところにカウンターを合わせ、倒し切るくらいの展開を狙うしかないのかもしれません。
ポイントで上回るのは難しいと思います。
拓真選手のスタイルは、尚弥選手にとって極端にやりにくいものではありません。トリッキーな動きをする選手ではないため、読みやすい部分があります。
もちろん、それは拓真選手から見た尚弥選手も同じです。ただ、どちらにポイントをつけるのかとなれば、尚弥選手に流れていく可能性が高いと思います。
カウンターを待つだけでは尚弥に読まれる

拓真選手が勝つためには、現在の完成度から、さらにもう一段上がる必要があります。
特に必要なのは、自分から尚弥選手にパンチを当てにいく攻撃力です。
カウンターだけを狙っていると、その意図を尚弥選手に見抜かれてしまいます。狙っていることが分かれば、尚弥選手には簡単に当たらないでしょう。
拓真選手が尚弥選手を相手に、どのように自分のボクシングを作り、自分のペースを取りにいくのか。そこが大きなポイントになります。
尚弥はジャブから丁寧に崩していく

尚弥選手から見た場合、まずはジャブの差し合いから入ると思います。
拓真選手のディフェンス能力を考えると、強引に倒しにいったり、当て急いだりすれば、攻撃を外される可能性があります。
そのため、ジャブとワンツーを中心に、急がず丁寧に戦うのではないでしょうか。状況によっては、無理に倒しにいかず、ポイント勝ちに徹する可能性もあると思います。
二人はスタイルだけでなく、リズムも似ています。長い間、お互いを見てきているため、タイミングも取りやすいはずです。
そのため、クリーンヒットの少ない展開になる可能性があります。
どちらかが普段とは違うトリッキーなことをしても、相手には「そんなことをやっているのか」と簡単に見抜かれるかもしれません。無理に普段と違うことをすれば、逆に自分のボクシングを崩す可能性もあります。
お互いに大きくスタイルを変えることはないと思います。
勝負を分けるのは尚弥のジャブ

パワー以外で拓真選手が最も苦しむのは、尚弥選手のジャブの長さと強さだと思います。
僕は、尚弥選手の方がジャブの距離が長い印象を持っています。大きなパンチはお互いになかなか当たらなくても、ジャブの差し合いでは尚弥選手が上回るのではないでしょうか。
顔へのジャブだけでなく、ボディジャブも重要になります。
駆け引きやフェイントを入れながら、速くて長いジャブを拓真選手に差し、ポイントを取っていく。拓真選手が反応したところで、今度はその打ち終わりを狙う。尚弥選手は、ロングレンジで少しずつポイントを重ねると予想します。
拓真選手がボディジャブを止めるためには、そこにカウンターを合わせる必要があります。
「ボディジャブを打つと危ない」と尚弥選手に思わせなければ、そのパンチでポイントを取られ続けてしまうでしょう。
天心との再戦で拓真の現在地が分かる

現在の拓真選手は、遠い距離でも近い距離でも天心選手を上回る可能性があると僕は思っています。
その拓真選手に対して、天心選手がどのように対抗するのかが楽しみです。
現時点では拓真選手が有利だと考えていますが、天心選手はこれまで非常に速いスピードで成長してきました。今回も、前回とは変わってくるはずです。
天心選手がどこまで現在の拓真選手に対抗できるのか。それとも、拓真選手が一方的に跳ね返すのか。試合内容は、天心選手の変化によって大きく変わると思います。
天心選手が前回から大きく伸びていなければ、前回以上に差のある内容で拓真選手が勝つ可能性もあると考えています。
尚弥と勝負になるために必要な天心戦の内容

僕は、尚弥選手と天心選手が戦えば、ロングレンジでも尚弥選手が圧倒すると思っています。近い距離だけでなく、ストレートの距離でも尚弥選手が上回るという予想です。
一方、前回の拓真選手と天心選手の試合では、ロングレンジでは天心選手の方が良かったと思います。そのため、拓真選手が距離を詰めて攻める展開になりました。
再戦で拓真選手がロングレンジでも天心選手を上回り、天心選手が距離を詰めざるを得なくなったうえに、近い距離でも何もさせないような内容になれば、拓真選手が前回よりさらに伸びている証明になります。
そうなれば、「尚弥対拓真は本当にいい勝負になるのではないか」という見方も増えると思います。
反対に、拓真選手がロングレンジで天心選手にペースを取られ、自分から詰めざるを得なくなり、その距離でも天心選手に対応されて僅差判定になった場合、尚弥選手との差はまだ大きいと感じます。
尚弥選手は、遠い距離でも近い距離でも天心選手に勝つと僕は考えています。尚弥選手と比較されるのは大変ですが、拓真選手にも、どの距離で戦っても天心選手を上回る内容が求められると思います。
現時点では尚弥の判定勝ちか中盤以降のストップ

現在の二人が、スーパーバンタム級、8オンス、12ラウンドで戦った場合、僕は尚弥選手の判定勝ち、もしくは中盤以降のストップ勝ちと予想します。
もう少し低い体重であれば、拓真選手の勝率は上がると思います。ヘッドギアを着け、14オンスほどのグローブで行うスパーリングなら、本当にいい勝負になるのではないでしょうか。
しかし、8オンスでは尚弥選手の殺傷能力が別格です。
拓真選手は、その攻撃を裁きながら自分でポイントを取らなければなりません。倒されないことに特化すれば、最後まで倒されずに戦えるかもしれませんが、ポイントを取りにいけばリスクを冒す必要があります。
尚弥選手の攻撃を防ぎながら、どのように自分のポイントを取るのか。これは非常に難しい作業です。
尚弥に最も勝てる可能性があるのは拓真なのか

「尚弥選手に勝てる可能性があるのは拓真選手だけ」という説については、現在の尚弥選手に勝つのは、拓真選手でも厳しいと思います。
ただ、その説で言いたいことは分かります。
今の尚弥選手に勝てる選手が、ほかにほとんど見当たらないからです。今後、尚弥選手がフェザー級に上がれば分かりませんが、スーパーバンタム級以下で尚弥選手と勝負論のある選手を挙げるなら、拓真選手になるのかもしれません。
現時点で一番可能性がある選手として、拓真選手の名前が挙がることには納得できます。
僕は前回の井岡一翔戦や、昨年の天心戦以降の拓真選手を見て、非常に強くなっていると感じています。自信をつけ、かなり伸びていると思います。
次の天心戦で、その成長をしっかり証明すれば、「兄弟対決を見たい」という声は、さらに増えるのではないでしょうか。
評価が上がったのではなく、拓真の強さが認知されてきた

尚弥選手と拓真選手の試合は、実現すれば非常に面白いドリームカードです。
以前は、二人の間には大きな差があるように見られていたと思います。しかし、現在は仮想対決が話題になるほど、拓真選手への評価が高まっています。
僕はもともと拓真選手を非常に高く評価していました。最近になって急に強くなったというより、もともと強かった拓真選手の実力が、より多くの人に認知されるようになったのだと思います。
まずは天心選手との再戦があります。勝敗はまだ分かりませんが、その後、拓真選手がどのような道を進んでいくのかも楽しみです。
井上拓真対中谷潤人も、僕にとっては非常に面白いカードです。そして最終的に、尚弥選手の現役最後の試合で兄弟対決が実現するようなところまで話が進めば、それも面白いと思います。
そのような未来を想像させる意味でも、まずは次の天心戦で、拓真選手に頑張ってほしいと思います。
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【この記事を書いた人】
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ボクシング特化型パーソナルトレーナー
世界・東洋・日本チャンピオン10名輩出
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