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井上尚弥選手とジェシー・“バム”・ロドリゲス選手の対戦が、来年2月から3月に計画されていると報じられています。

そうしたなか、バム選手のトレーナーであるロバート・ガルシア氏が、井上選手について「強いパンチを打つときに顎が上がる」と指摘しました。

一方、実際に井上選手からダウンを奪ったラモン・カルデナス選手は、「井上選手は同じミスを繰り返さない」とバム陣営に警告しています。

井上選手が強打を放つ瞬間は、本当に攻略できる弱点なのでしょうか。カルデナス戦でダウンを奪われた原因や、そこから見せた修正、バム選手が勝機を作るために必要な戦い方まで、ボクシングトレーナーの立場から解説します。

「顎が上がる瞬間」を狙うのは簡単ではない

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ロバート・ガルシア氏は、かなり有名なトレーナーです。確かに井上選手がパンチを打っている写真を見ると、顎が上がっているものもあります。

ただし、その瞬間を本当に狙えるのかという話です。井上選手の顎が上がるのはパンチを打つ瞬間ですから、狙うのであれば、避けてから打つのではなく、ほぼ相打ちのタイミングで当てなければなりません。

井上選手はものすごく速く、フェイントも駆け引きも上手い。さらにパンチも強いため、そのパンチに対する恐怖心があれば相打ちは狙えません。「実際にできるのか」と聞かれれば、僕はそんなに簡単ではないと思います。

強いパンチを打つときは、どうしても力みが出るため、隙ができやすくなります。顎が上がりやすい人もいれば、ガードが下がりやすい人もいる。そこは選手によってさまざまです。

練習では、思い切りパンチを打っても顎が上がらないように繰り返します。しかし、試合の流れの中では、すべてを練習どおりに行うことはできません。そこで普段の悪い癖が出ることはあります。

顎が上がった状態でパンチをもらえば、どうしても効きやすくなります。そのため、「顎を引け」というのは、トレーナーが口酸っぱく言うことの一つです。

ガルシア氏の指摘していることは分かります。しかし、井上選手の顎が上がるのは、思い切りパンチを打つときや、強く踏み込んでくる瞬間です。つまり、あれだけ速くて強い井上選手を相手に、相打ちを狙うことになります。

これは超リスキーです。自分もパンチをもらう可能性がかなり高くなりますし、その場に止まって迎え撃たなければならない。相当な度胸がなければできません。分かっていたとしても、実際に狙いにいくのは難しいと思います。

カルデナス戦のダウンは「顎」よりも油断が原因だった

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カルデナス選手がダウンを奪ったのは試合序盤でした。あのときの井上選手は、早いラウンドで倒そうとしていたように見えます。そこに少し力みがあり、油断もあったのではないでしょうか。

僕は、あのダウンについては顎の位置より、井上選手の油断や集中力の方が問題だったと思っています。実際、その後はほとんどパンチをもらっていません。

もしバム選手と戦うことになれば、井上選手は最初から集中しきると思います。フェイントや駆け引きを止めることもないでしょう。バム選手にスピードがあることも分かっているため、スピードのある相手としてかなり警戒するはずです。そう考えると、攻略は難しいのではないでしょうか。

カルデナス選手が、あの一発を事前に狙っていたのかは分かりません。仮に狙っていたとすれば、相当すごいことです。

あの場面では、井上選手がかなり詰めていました。アフマダリエフ戦や中谷潤人戦では、特に序盤、パンチを打った後のバックステップや防御への意識が非常に高かったと思います。しかし、カルデナス戦でダウンを奪われた場面では、防御よりも攻撃への意識が圧倒的に高く見えました。それによって、あの一発をもらったのではないかと思います。

バム陣営が指摘した「顎が上がる」という話と、カルデナス戦のダウンがまったく無関係だとは思いません。ただ、あのダウンは顎が上がった瞬間を狙われたというより、倒しにいったときの油断による部分が大きかったのではないでしょうか。

顎が上がった瞬間という意味では、ルイス・ネリ戦で奪われたダウンの方が当てはまるように感じます。あのときも、井上選手は足を止めて打ち合っていました。普段どおり足を生かしていれば起きなかった可能性もありますが、そこは結果を見た後の話なので、実際のところは分かりません。

ダウン直後に変わったのは「防御への意識」

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カルデナス選手は、ダウンを奪った後は同じ隙を見つけられなかったと話しています。

井上選手が大きく変えたのは、防御への意識だと思います。ダウンを奪われるまでは攻撃の割合がかなり高く見えましたが、その後はきちんと距離を保ち、相手を詰めすぎなくなりました。

意識を変えるだけでも、動きは大きく変わります。ガードの位置や攻撃のタイミングにも細かな調整はあったと思いますが、一番大きかったのは意識です。「このタイミングで来る」「この距離は危ない」という情報を頭に置きながら戦ったのだと思います。

強い選手は同じパンチを二度もらわない

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パンチをもらった直後に修正できる選手は、どのタイミングで、どのパンチをもらったのかを頭に入れます。そして、同じパンチを二度もらわない。これは強い選手の条件の一つです。

井上選手は、その能力が非常に高いと思います。

パンチをもらうことには必ず理由があります。なぜもらったのか、相手が何を狙っているのか、どのタイミングで狙ってくるのか、自分はその相手からどのようなときに、どのパンチをもらうのか。試合中のやり取りの中で、それを学び、気づかなければなりません。

相手と向かい合いながら、「このタイミングを狙っている」「ここで、このパンチを狙っている」と読み取る。それが試合中の学習能力です。

同じミスを二度しないためには、自分をセーブしてコントロールする力も必要です。井上選手は、自分をコントロールする力と相手を見極める力の両方が高い。それが優れた学習能力につながっているのだと思います。

井上選手だけでなく、テレンス・クロフォードやシャクール・スティーブンソンのように、世界でも被弾率の低い選手は、特に修正力が高いと思います。井上選手も、そうした選手たちと同等のレベルにいるのではないでしょうか。

修正力は普段の対人練習で磨かれる

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修正力を磨くためには、自分の動きだけに特化した練習ではなく、実戦練習や対面練習の中で、相手を読み取る能力を養う必要があります。

自分の動きばかりに集中していると、相手が何を狙っているのかに気づきにくくなります。まずは反復練習によって自分の動きを作り、自分でコントロールできるようにする。そのうえで、ボクシングは相手がいる競技ですから、相手が何を狙い、何を考えているのかを読み取る意識を持って練習しているのだと思います。

試合では、パンチをもらえば少なからずダメージがあります。痛みや疲れがある中でも修正しなければなりません。

例えば、相手のパンチが強く、それに対して恐怖心を抱いてしまえば、自分をコントロールすることは難しくなります。自分をゲームのコントローラーで操作し、自分自身をゲームのキャラクターとして動かしているような感覚になるくらい、頭は冷静でなければなりません。

「心は熱く、頭は冷静に」という状態です。しかし、実際には感情が勝ってしまうこともあります。「痛い」「怖い」「疲れた」という感情が勝てば、自分をコントロールできません。さまざまな要素がある中でも自分を見失わず、自分自身を俯瞰する能力が必要です。

アフマダリエフ戦では深追いせず、自分にブレーキをかけた

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カルデナス選手は、井上選手が次のアフマダリエフ戦でガードを上げ続け、相手に勢いを与えなかったと話しています。カルデナス戦でダウンを奪われた経験は、アフマダリエフ戦にも生かされていたと思います。

アフマダリエフ選手に強いパンチがあることは分かっていたため、井上選手本人も陣営も相当警戒して試合に臨んでいたはずです。最初から高い集中力を保っていたように見えました。

具体的には、やはり距離です。距離を詰めすぎず、打てる場面でも打ちすぎない。攻撃に行きすぎないようにブレーキをかけ、自分をコントロールしていました。

強く詰めて連打を続けると、相手が振ってきたパンチをもらいやすくなります。しかし、アフマダリエフ戦では一発打ったら戻り、また打ったら戻るというように攻撃を区切り、深追いしませんでした。

カルデナス戦でダウンを奪われた場面では、その区切りが少なく、相手に近い距離にいる時間が長かったように見えます。ダウン後は、そうした戦い方ではありませんでした。

アフマダリエフ戦でガードを上げながら戦ったことで、攻撃力は多少落としていたと思います。攻撃に行く割合を減らし、その分、防御や距離に対する意識の割合を高めていたのではないでしょうか。

井上尚弥に「弱点らしい弱点」は見つからない

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井上選手には、弱点らしい弱点がそれほどあるようには見えません。

弱点を隠しているというより、相手に見つけられないように戦っているのだと思います。もし明確な弱点があり、相手がそれを見つけて突くことができていれば、これまでに一度くらい負けているはずです。

弱点があったとしても、対戦相手が見つけられていないか、見つけても実際には突くことができていないということです。

ボクサーには誰にでも癖があります。悪い癖を直すためには反復練習が必要です。古い癖をなくし、新しい癖をつけなければなりません。ただ、長く続けてきた癖は抜けにくく、試合の中ではどうしても出やすいものです。そのため、悪い癖を直す練習を繰り返します。

隙を作らせても、そこに当てなければ意味がない

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バム選手が井上選手の隙を引き出す可能性は、なくはないと思います。ただし、最終的には井上選手次第です。

井上選手はバム戦になれば、かなり集中するでしょう。仮に顎が上がる場面があったとしても、バム選手がそこを実際に突けるかどうかは別の話です。

顎が上がる瞬間自体はあると思います。しかし、その一瞬にパンチを当てなければなりません。顎を上げさせるだけではなく、その瞬間に当て、倒すところまで求められるため、かなり難しいと思います。

逆に井上選手が、相手に弱点を狙わせて利用することも考えられます。狙わせておいてカウンターを取ったり、頭を前に出してパンチを誘い、外して返したりする。カウンターを取るために餌をまくような駆け引きは、実際に行われます。

一つの狙いにこだわれば井上尚弥に読まれる

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一つの狙いだけにこだわると、ほかの攻撃に対応できなくなります。また、何を狙っているのかは相手に隠しておかなければなりません。

「これを狙っている」と見せながら戦えば、相手には分かります。それではパンチは当たりません。別の狙いを見せて逆を狙うなど、複数の仕掛けが必要です。そこは完全に駆け引きであり、どちらが主導権を握って進められるかが重要になります。

バム選手が井上選手の隙を狙うためには、バム選手自身が主導権を握り、試合を作る側にならなければなりません。それができなければ、あとはラッキーパンチを待つしかなくなります。

井上選手に隙ができるとすれば、例えば左フックや左ボディを打つときに、少し胸を張る瞬間があります。そこに左フックを相打ちで合わせることは考えられます。

ただし、あのスピード、パンチ力、ステップワークを持つ井上選手を相手に、倒せるほどのカウンターを相打ちのタイミングで打てるのかという話です。

井上選手のペースで戦っていたら難しいと思います。バム選手がゲームメイクし、井上選手が身体を開いて打つような場面を自分で作り、その瞬間に当てなければなりません。かなり難しい作業になります。

フェイントと距離の駆け引きでも井上尚弥が上回る

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井上選手はフェイントに対する反応が非常に良く、自分から使うフェイントや駆け引きも上手い選手です。

その駆け引きの中でバム選手が井上選手に合わせる状態になれば、井上選手の方が前後のステップは速いと思います。攻撃の射程距離も、僕は井上選手の方が長いと考えています。

バム選手は、その距離を詰めなければなりません。多少の被弾を受け入れながら距離を詰め、さらに井上選手の顎が上がった瞬間にカウンターを打つことになる。これは簡単ではありません。

バムが勝機を見いだすなら近い距離

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カルデナス選手が「井上選手は同じミスをしない」と話している以上、過去と同じ場面を再現するだけでは攻略できないと思います。

バム選手がジャブやストレート、ワンツーを中心とした戦いをすれば、勝機を見いだすのは難しいのではないでしょうか。

バム選手は、フェルナンド・マルティネス選手を倒したときのように、相手の右に左のカウンターを合わせます。しかし、それが井上選手に当たるかと聞かれれば、僕はかなり難しいと思います。

バム選手が勝機を作るとすれば、クロスレンジと呼ばれる近い距離でのフックの相打ちや、サイドステップを使った攻撃などではないでしょうか。

ただし、井上選手は足が速く、サウスポーに対しても左フックのカウンターを打てます。これはバム選手にとって、かなり厄介だと思います。

引き出しがあっても実戦で使えるとは限らない

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バム選手にも多くの引き出しがあると思います。しかし、その引き出しを井上選手を相手に使えるかどうかは、また別の話です。

井上選手のスピードとパワーに対して、バム選手は攻めなければ勝負になりません。攻めたときに井上選手のカウンターをもらうのか、受けるのか、避けられるのか。その攻防に対処できるかどうかが見どころになります。

井上選手が集中していれば、かなり攻めにくいと思います。

井上選手も人間ですから、どこかに隙はあります。そもそも、ボクシングでは攻撃するときに必ず隙ができます。ガードを固め続けていれば隙は減りますが、それでは攻められず、試合にも勝てません。

井上選手にも、攻撃する瞬間の隙はあります。しかし、井上選手のスピード、パンチ力、駆け引きの上手さを相手に、その一瞬へパンチを当てなければなりません。井上選手は、それぞれの能力が非常に高いため、攻略が難しくなっています。

井上尚弥の隙を突けるとすればリゴンドーのような選手

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井上選手の隙を突けるとすれば、ギジェルモ・リゴンドーのように距離とタイミングが抜群で、パンチ力とスピードもある選手ではないかと考えたことがあります。

バム選手も優れた選手ですが、僕はリゴンドーほどのスピードはないと思います。ストレート系のパンチやロングレンジでの駆け引きについても、リゴンドーの方が上だと考えています。

もちろん相性もありますが、バム選手にとっては厳しいのではないでしょうか。

バム選手が井上選手の隙を突くためには、我慢する展開になると思います。苦しい時間に耐え、その先に訪れるチャンスで隙を突ければいい。しかし、チャンスが来る前にバム選手が消耗してしまえば、攻略は難しくなります。

一つのパンチを当てるために複数の形が必要

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井上選手のように、一度受けた攻撃を二度ともらわない選手と戦うのであれば、違う引き出しを増やさなければなりません。

例えば左フックを当てるとしても、そのパンチを当てるための形を何通りも作る必要があります。一つのパンチを当てるために、多くの引き出しを準備しなければなりません。

さらに、自分が主導して試合を作れるかどうかも重要です。井上選手に合わせる形になれば、バム選手は厳しいと思います。

勝敗を左右するのは井上尚弥の集中力とバムの我慢

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ガルシア氏が指摘した「強いパンチを打つときに顎が上がる」という弱点が勝敗に影響するかどうかは、井上選手次第です。

井上選手が倒しにいきすぎれば、隙ができる可能性はあります。しかし、勝つことに徹して最初から最後まで集中しきった場合、その隙を攻略するのは難しいと思います。

バム選手に求められるのは、井上選手の攻撃に対して、どれだけ我慢できるかです。

井上尚弥対バムはまだ正式決定ではない

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今回は、バム選手のトレーナー陣営が井上選手について「打つときに顎が上がる」と指摘し、それに対して過去に対戦したカルデナス選手が「同じミスは繰り返さない」と語ったことについて解説しました。

ただし、井上選手対バム選手は、まだ正式に決定したわけではありません。まずはバム選手に噂されているバンタム級での次戦が決まらなければ、この対戦も夢物語で終わってしまう可能性があります。

僕自身は、2月から3月に計画されている試合を実際に見たいと思っています。井上選手は、その後にフェザー級へ転向し、最後の挑戦にすると話していますが、僕としてはもっと長く戦う姿を見たいという気持ちもあります。

バム陣営が井上選手と戦うための道をどのように作り、本当にそこまでたどり着けるのか。海外からも注目されている対戦なので、今後も動きを追いながら話していきたいと思います。

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しいの

【この記事を書いた人】
アマチュア実績全国3位(東洋大)
元プロボクサー
世界ランキング最高7位
第43代OPBF東洋太平洋バンタム級王者
ボクシング特化型パーソナルトレーナー
世界・東洋・日本チャンピオン10名輩出
キッズボクサー全国チャンピオン5名輩出
キックボクサー世界チャンピオン指導

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